Skype創業者のNiklasにちょっと飯でもどう?って呼ばれてロンドン弾丸トラベルしてきた話

スマートニュースの今回の調達は36億円という規模もあって、あちこちで話題にしていただいて、ありがたいです。
規模のさることながら、この朝日新聞の福山崇記者によるこちらの記事でも触れてますが、応援団としてのいい投資家に入ってもらえたことが、今回のラウンドのポイントだと思っています。

今回、スマートニュースが36億円を調達したということよりも、たくさんの応援団を得たということろが大きいなと思っています。
 アトミコもミクシィもグリーも、既存投資家の皆さんも、スマートニュースがうまく行きそうだから乗った、ということではなく、我々がやろうとしているビジョンとか、プロダクトの質とか、技術にこだわるカルチャーとか、そういうものを総合的に評価してもらいました。

Atomicoの投資を受けるのはゼロ/イチかの話でした。Atomicoは以前から日本に拠点をもっていたのですが、日本ベースだけど外国人創業者のGengoや、ロンドンベースの日本人創業者のQuipperには出資していましたが、日本ベースで日本人創業者の会社に出資した例はありませんでした。しかも、いまAtomicoが運営しているファンドは、レイトステージなので件数は絞られていて、売上がゼロの会社に出資した例もありませんでした。Atomico的には例外中の例外の案件で、ルールを新たにつくりながら投資してもらったのです。Managing Partnerの田村さんが春に来日したときに、競合も含めて7社の面談をしたらしいですが、投資検討までいったのはスマートニュース1社だけでした。まさにゼロ/イチな話です。そのときのプレゼンは、Skype越しにAirBnBで借りたニューヨークのチャイナタウンの謎な中国趣味の部屋から行いました。

その後、Atomicoのチームの岩田さん田村さんと話を進めていたのですが、最後はスカイプの創業者であるNiklas Zenstrromが、直接会いたいので、ストックホルムのNiklasの自宅にきてディナーでもどう?という話がきました。Niklasは直接会ってない人には投資しないそうで、そればかりはルールが変えられないと。そのときぼくと階生さんはサンフランシスコ、調達担当の堅田さんは東京ということで、さすがにスウェーデンはつらいので、Atomicoの本社があるロンドンへ一泊二日の弾丸トラベルで、サンフランシスコからぼくと階生さんが、東京から堅田さんと川田さんがNiklasとディナーしに集まるという、なんともハードなことになったです。

 

結果はというと、Niklas、超いいやつでした。本物のプロダクトガイです。Niklasからの質問は機械学習の部分など結構コアなところに集中しました。P2P技術で席巻したKazaaのあと著作権の問題で挫折し、同じ技術を使ってPivotしてSkypeを創業し、世界中の人々が使うコミュニケーションインフラをつくりあげたNiklasは、テクノロジーこそが本質であるという考えを徹頭徹尾貫いていました。アドバイスは「マーケティングの会社になるな、技術とプロダクトの会社であれ」、「収益化は急がなくていいから、広告によってユーザ体験が損なわれないように注意せよ」というメッセージでした。

Atomicoの他のメンバーも、いわゆるVCの人たちのイメージとは全く別物のプロダクトラバーでNiklasの考え方が浸透しているようで、素晴らしいカルチャーでした。でもいっときますが、デューデリは、どのVCよりも厳しいというか細かかったです。

というわけで、みんなでパブにいってビールをたらふく飲んで、美味しいインド料理を食べながら、いろんな話をしてきました。来年の夏はストックホルムの自宅に招待してくれるということで大変楽しみです。

Niklasは今年11月に来日して、スマートニュースのオフィスにも遊びにくるので、社員のみんな、楽しみにしててね。

今回は投資したいという金額を全部あわせると、100億を軽く越えるお金が集まりそうな状況でした。調達額を36億円までおさえて、応援団として最適な投資家の方々に適切な金額で納得してもらう調整に、大変苦労しました。こういう規模の調達を考えられている起業家の方がいらっしゃったら、必要とあらば助言しますが、多少のコツが必要だと思います。調達は決して難しくありません。難しいのは、素晴らしいプロダクトとチームをつくりあげ、信念とビジョンを決して妥協しないことです。

最後に繰り返しますが、調達は規模ではなく、誰にどういう気持ちで投資してもらうかが大事だと思います。Ziff-Davis publishingの元PresidentであるBill Lohseは金額こそ多くはありませんが、われわれが米国にいくたびにディナーに招待してくれて、メディア業界の幅広い人脈を活かして、様々な人たちを紹介してくれます。シリコンバレーには、Billさんのような哲学バックグラウンドのビジネスパーソンが活躍していて、結構楽しいです。

最後に2秒で2億投資を決めた川田さんの男気と、調達の裏方をハードワークで支えてくれた堅田さん、プロラタ以上を即決してくれたグロービスの今野さんと他のパートナーに感謝します。新規の投資家からの応援もうれしいですが、毎週毎週顔をあわせて経営プロセスを共有している既存投資家がプロラタ以上を投資してくれるというのは、調達において最大の応援メッセージなのです。

調達の話はこれでおしまい。またプロダクトフォーカスな世界に戻って、「まだここにない」プロダクトづくりに励んでいきます。

Rich JaroslovskyさんがVPとしてスマートニュースに参画

先日の日経新聞で紹介されましたが、Rich JaroslovskyさんがVice President for Contentsとしてスマートニュースに参画してくれることになりました。

 

LinkedInにプロフィールは詳しく載っていますが、簡単にRichさんを紹介しましょう。

Richさんは、スタンフォード大学時代にThe Stanford Daily Newspaperの編集長を務め、卒業後、ウォール・ストリート・ジャーナルの政治記者としてキャリアをスタートしました。レーガン大統領と一緒に来日して昭和天皇にも会ったとか、ワシントンD.C.時代に政治記者としても賞を受賞しています。

また、1994年に世界で最初期のオンラインニュースメディア The Wall Street Journal Online (WSJ.com)を立ち上げたときのManaging Editorで、世界ではじめてsubscription fee modelを導入するなど、オンラインニュースの世界を切り開いたレジェンドな人物でもあります。

そして、オンラインニュースで世界最大の業界団体であるOnline News Association(ONA)のFounding Presidentとして、wsj.comだけでなく、オンラインニュースの世界全体の発展に貢献してきました。その栄誉を讃え、ONAではRichさんの名前を冠した賞があるほどです(そうした賞があるのはONAでRichさんだけです)。

愛校精神にもあふれ、スタンフォード大学のAlumni AssociationのChairmanも務めました。そのときに大学側の交渉相手だったのが、当時スタンフォード大学の学長だったライス元国務長官だったそうです。現在でも、The Stanford Daily NewspaperのChairmanを務めています。

また、ブルームバーグのExecutive Editor時代は、テック/ガジェット系のコラムニストとして人気を評し、Appleに出入りができる数人のジャーナリストのうちの一人でした。Richさんがスマートニュースに参画してくれることになったのも、テックコラムニストとしてたくさんのプロダクトを評価してきた経験から、SmartNewsのプロダクトの良さ/手触り/クオリティを評価してのことです。

そんな輝かしい経歴をもつRichですが、いつもユーモアあふれるトークで笑わせてくれる、とっても気さくな方です。オンラインニュースにおけるRichさんの強いビジョンがスマートニュースのメンバーと共鳴し、今回のジョインとなりました。

Richさんにはスマートニュースの世界展開戦略の中で、重要な役割を担っていただくことになります。チームインテグレーションのために3週間弱、日本に滞在していまして、その中で日経さんに記事にしていただきました。素晴らしい仲間を得ることができて本当にうれしいです。スマートニュースの人材面については、今後いくつかニュースが続くことでしょう。

2013年3月のイベント参加予定まとめ

3/6(水)東京
シンポジウム『21世紀のC.P.Snow : 駒場における2つの文化』
内容:理系と文系の溝について、21世紀の大学のあり方について話すようです。
知と大学の未来について妄想を爆発させます!
日時:3月6日(水)10:00-15:00
場所:東京大学駒場キャンパス駒場東大前)
メンバー: 小林康夫、清水晶子、開一夫、岡ノ谷一夫、池上高志ほか。
スペシャルゲスト: 鈴木健、森田真生
料金:無料
定員:150名
詳細/申し込み:http://atnd.org/event/E0013331

3/9(土)福岡
鈴木健 講演会』
内容:『なめらかな社会とその敵』について講演します。
場所:西日本新聞会館福岡国際ホール 志賀の間(福岡県)
日時:3月9日(土)17:00-18:30
料金:5000円
定員:40名
詳細/申し込み:http://saintcross.jp/suzuki.html

3/15(金)東京
『なめらかなカイギ』
内容:『なめらかな社会とその敵』を読了した参加者だけで議論をするイベント。ぼくはその場でオブザーバとして聞きています。
基本黙ってようと思ってますが、森田君に振られたら、何か話しだすかも!?
応募する人は、ウェブ上で『なめ敵』についてなんらかの表現(感想、批評等)を公表してください。
イベント終了後、サイン会、懇親会もします。なめ敵に強い関心をもつ人が集まる、少人数での楽しいイベントになりそうです。
日時:3月15日(金)18:30-21:00
場所:芸能花伝舎(西新宿)
オーガナイザー:森田真生
オブザーバー:鈴木健
定員:20名
料金:無料(終了後の懇親会に参加する人は実費)
詳細/申し込み:http://nameteki.doorkeeper.jp/events/2947

「なめらかな社会とその敵」刊行記念基調講演@ソーシャルメディアウィーク東京2013

来週のソーシャルメディアウィーク東京2013の初日のオープニングで講演をすることになりました。

日時:2/18(月)11:30-12:50
場所:講談社本館講堂
参加費:無料
演題:「なめらかな社会とその敵」刊行記念基調講演「生命にとってソーシャルとは何か」

です。ぼくの話の後に、TwitterFacebookの日本代表の講演があり、そのあとはGoogle+のアジアパシフィックの責任者の講演と、1日でソーシャルまるわかりの美味しいプログラムになっています。

平日の昼ではありますが、無料ですので、よろしければぜひ、ソーシャルメディアウィークのウェブサイトから参加を申し込んでください

本を持ってない方も、当日2刷があがってきますので、会場で買えるように用意しておきます。

「なめらかな社会とその敵」誤植リスト

【6刷修正予定】
p35 下から1行目 Faceook => Facebook
p40 f(λ,x)=2/(1+e^λx)-1 => f(λ,x)=2/(1+e^-λx)-1 (λの前にマイナス記号)
P51 下から1行目「安富歩」→「安冨歩」(漢字を別体(俗字)のものに)
p99 表4.2説明文の4行目‘買り手の近く’=>‘買い手の近く’
p243 9行目 竜安寺龍安寺
P260 「安富歩」→「安冨歩」(漢字を別体(俗字)のものに)

【5刷修正】
p3 下から6行目 昭和46年->昭和41年
p32 9行目 意見を延べ->意見を述べ
P96 (4.74)と書かれた行から2行上の数式で右端にc_{i}が必要
p193 14行目 「1920年の論文 で」->「1920年の論文で」(半角スペースを削除)
P208 3行目 敵と味方を区別は->敵と味方の区別は
P224 16行目 ダイナミックさが健全に->ダイナミックさを健全に
P254 3行目 江原理恵->江原理恵(RE)

【3刷修正】
P4 17行目 その人を探索するかように->その人を探索するかのように
P11 下から5行目 追求->追究
P19 表1.1 社会的な核->社会的な制御
p42 下から5行目:「なめらかなに日本」→「なめらかに日本」(「な」トル)
p45 上から16行目:「価値の囲い込みしづらく」→「価値を囲い込みしづらく」(「の」→「を」)
p58 上から16行目:「-200円」→「-200円」(ハイフンをマイナスに)
p99 表4.2説明文の2行目’(右上向き矢印)’の最初のアポストロフィが閉じ
P119 上から2行目、C-shitsプロジェクト->C-shirtプロジェクト
P120 図のキャプション C-Shirtsプロジェクト->C-shirtプロジェクト
p134 下から7行目、分人(divdidual)→分人(dividual)
p168 下から13行目、価値観が多様化->価値観の多様化
p171 下から5行目、してはらない→してはならない
p195 12行目 ド・ポロニー →プロニー
p206 上から8行目、Augumented Reality→Augmented
p220 下から9行目 契約の強さが減衰->契約の強さを減衰
p233 下から11行目 そのサブエフェクトして説明し->そのサブエフェクトとして説明し

【2刷修正】
まえがきii 17行目:向き合うべきだなのだろうか=>向き合うべきなのだろうか
P31 3行目、「追求」は「追及」
p79 3行目、C_bをc_bに
P79 (4.22)式 右辺分子に乗っかっているE{bb}をE_{bb}に
p84-85の図4.6〜図4.8は、b=>Xの値を0.2から0.1に
p98 1行目 C_0→c_0
p105 10行目 C_b→c_b
p105 10行目 「売り手から買い手への評価E_bs」は「買い手から売り手への評価E_bs」
P116「スプレッドシートをで互いの…」=>「スプレッドシートで互いの…」
P165 1パラ目 「…そうしうた行為」=>「そうした行為」
P168 1パラ目「参加するものみなされ」=>「参加するものとみなされ」
P174 1パラ目「他者から責任を追求…」=>「追及」
P174 1パラ目「3000年前までは、まで人類は…」=>「までは、人類は」
P199 2パラ目「インターネットが膜的なのは…」=>「網的」
P210 グレッグイーガンの引用で、段落の頭の字下げ
プロフィール、「クローバル」を「グローバル」
装丁写真下のプロフィール、「クローバル」を「グローバル」

「なめらかな社会とその敵」刊行記念トークショーなどの予定

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なめらかな社会とその敵」をテーマにして、2/4月曜日にヒルズのG社でTech Talkを行いました。さすが、みなさん理解も反応もよく、とても盛り上がりました。

本の出版に伴い、あちこちから講演やインタビューの依頼が舞い込んでいます。

2/23(土)には三鷹天命反転住宅で刊行記念トークショーをします。

鈴木健氏の書籍『なめらかな社会とその敵』(勁草書房)の刊行を記念して「天命反転トーク 鈴木健に聞く」を開催いたします。ゲストには著者の鈴木健さんと聞き手として独立研究者・森田真生さんをお迎えします。お二人は三鷹天命反転住宅の元住人。鈴木健さんの新著を中心にお二人の最近の活動、そして住宅体験記などひと味違ったトークに触れるまたとない機会です。ぜひ皆様ご参加ください。
トークショー終了後にサイン会を行います(当日会場での書籍販売有)。

3/9(土)に福岡で、3/15(金)の夜に東京でのイベントも企画されています。

すでにインタビューも2本受けました。

本の執筆が終わるまではと思い、イベントや対談などの企画は基本的にほとんど断ってきましたが、しばらく解禁しようと思います。ご依頼があった場合はなるべく受けますので、興味のある方はお問い合わせください。

また、すでに読者が集まって勉強会を開催するという話があるようです。

こういう動きがあるのはうれしいですね。

冒頭のG社のTech Talkのときに「6時間バージョンのセミナーが聞きたいのですがどこでやってますか」というのが最初の質問でした。勢いで「企画します」と言ってしまいましたが、これもやりたいですね。ロングバージョンのちゃんとしたのは、大学院の講義やセミナーがいいかもしれません。どこぞの大学の方、興味ありましたらお問い合わせください。

思想の散種にご協力を:「なめらかな社会とその敵」の出版によせて

 

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先週、「なめらかな社会とその敵」を勁草書房から出版しました。

帯には中沢新一さんと青木昌彦さんからこれ以上ない推薦の言葉をいただきました。

276ページとコンパクトな量ですが、過去13年分の研究と思索をまとめた本です。

勁草書房の編集者から執筆を依頼されたのは6年以上前ですが、「なめらかな社会とその敵」というタイトルで本を書こうと決めたのは10年も前になります。

この複雑な世界を、複雑なまま生きることは可能なのか。境界のない、なめらかな社会はいかにして可能なのか。本書は、この問いへの処方箋を情報技術に見いだしています。

私的所有の生物学的起源からはじまり、オートポイエーシス伝播投資貨幣PICSY分人民主主義Divicracy自然知性から構成的社会契約論にシュミットの友敵論まで、「なめらか」というキーワードを通したひとつの物語として、来るべき300年後の社会システムを描いています。

専門書なのに、出版から数日で重版がかかり、いったいどこのどなたが買って読んでいるのか、分からないまま想像するのを楽しんでいます。

電子出版が勃興しようというこのご時世に、何故に紙の本を出版するのか、いぶかしがる人もいるでしょう。

しかし、もしかしたら、デジタルよりも紙の本のほうが長持ちするかもしれません。

この本を買えば、300年後の読者に思想を散種することにつながります。

想像してみてください。

あなたが買った「なめらかな社会とその敵」は、読後あなたの部屋の本棚にそっと置かれることでしょう。

家に遊びにきた友達が、ふと本棚に目をやり、手を伸ばします。

「よかったら貸してあげるよ。」

あなたは二度と手元に戻ってこないことを知りつつ、友達にその本を薦めるのです。

その後、数奇な運命を辿る一冊の本は、30人の手を渡り歩き、300年後のある日、ひとりの若きプログラマーの両手の中で、破れないようにそっと表紙がめくられます。

物語はそうして始まります。

想像してみてください。

たんぽぽの綿毛が春風の中に踊るとき、種の運命は分かりません。

多くの綿毛は着床することなく途絶えるかもしれません。

しかし、たくさんの綿毛が散種されることにより、奇跡的な事件が起きるのです。

あなたの一冊で。

学校の図書館で本を借りる時、本の裏表紙に張ってある、借りた人の履歴を見るのが好きでした。

20年も前に出版された本なのに、借りたのは18年前の田中さんだけ。

図書館の受付に本を返すとき、次に借りるのは18年後の森田さんかな、と想像し、そこに一冊の本を通して36年の時を越えて3人が会寓する不思議な縁を思うのです。

ぼくがこの本で書いた内容は、そうして図書館や友達の部屋で出会った数千冊の本と、袖振り合った数千人との会話からできています。

どうか、思想の散種にご協力を。

これは私の本であり、あなたの本なのです。

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