第1回個人情報研究会

GLOCOMの第1回個人情報研究会という内部研究会に参加してきた。

中島洋さんが主宰で、青柳さんが発表、弁護士の牧野二郎さんがディスカッサントとという10人の研究会だった。10人という規模は適正ですね。

はっきりいって個人情報保護の問題は、PICSYでは前々から問題が指摘されていた。ようするにトランザクションがひとつのデータベースで管理される問題や、他の人の口座情報をどこまで見れるようにすればよいのかという問題だ。

10月のGLOCOMでの研究会のときに、東浩紀さんが特にこだわって指摘していたので、そろそろ個人情報保護を極めないとまずいなと思っていたところ、お誘いがかかったので参加してみた。

感想としては、議論が成熟していない分野だということだろう。それだけ難しいテーマだともいえる。牧野さんが言っていたように、理論のコアの部分でまだ検討の余地がありそうだ。

ところで、監視カメラの問題がでたところで、ずっとぼくはそれがそんなに問題なのか、と思っていた。監視カメラで見張るのと、警察官が見張るのの違いは、向こう側で誰が見ているのか分かるか分からないかという違いだ。

確かに人間がもっている心理的な違和感が監視カメラにはある。ただしこれは、電車の中で携帯電話で話している人に違和感を覚えるのと近い。電車で2人の人間が立ち話をしているのにはまったく違和感を覚えないが、向こうに誰がいるか分からない携帯電話を見ると、すごくマナー違反になってしまうのだ。声の大きさはさほど重要ではない。だから、携帯電話に相手の声が大きく聞こえる機能「マナーモード」をつけて、まわりの人にも相手の声が聞こえるようにすればいいと思っていたのだが、もはや電車での携帯はマナー違反として定着してしまった。

話を監視カメラにもどすと、監視カメラに監視している人の動画をつければ、それは警察官がみはっているのとかわらないから、心理的にはOKだろうということだ。

ところが話はそう簡単ではなかった。最近の顔認識の技術はすごく発達しているらしく、動画と何枚かの顔画像情報からマッチングが簡単にできてしまうらしい。そこからアンカリングで他のデータベースの情報をとってくれば、監視カメラでリアルタイムにどういう人が歩いているのかが分かってしまう。これは警察官が立っていて監視しているのとは訳が違う。

今回の研究会の収穫は、このアンカリングという概念である。アンカリングとは、アーヴィン・ゴフマンによると、「ある解釈枠組み(フレーム)のなかで一定の解釈を受けている存在と、その解釈対象のリソースあるいはモデルとみなされる存在との結びつきのこと」である。つまり、ネットコミュニティでの人格Aが、どこそこにすんでいる田中さんと一致しているという情報がアンカリングである。ゴフマンといえばシンボリック相互作用論の人だよなあ、というイメージなので、個人情報保護の話ででてきたのには驚いた。

現在、世界にあるデータベースは基本的に孤立している。われわれの行動情報は常にどこかの会社のデータベースに蓄積しているのだが、それらが孤立していることによってわれわれのプライバシーは守られているのだ。XML技術の発達は、データベース同士のリンクを非常に安価で実現する手段を提供している。アンカリングのローコスト化がプライバシーに与える影響を考える必要があるかもしれない。