女キリスト

昨日は、茂木健一郎(42)が駒場にきたので、渋谷で飲んだ。

講義の途中で部屋に入ると突然あてられた。「茂木さんはハードプロブレムより、最近はイージープロブレムに志向が移っているようだけど、どうなんだ」というようなつまらない質問をしてしまった。後で考えると「ホムンクルスをつくるためにはどうしたらいいか」「身体性を神経系の延長としてとらえるのでなく、神経系を身体性の延長としてとらえるべきでないのか」とか、もっとよい質問があったように思う。

飲み会で久しぶりに茂木さんと話した。前よりも少し穏やかになったかもしれない。働きすぎで疲れているだけかもしれないけど。

N君(25)と話した。彼は東大生なのに渋谷のセンター街で寝泊りし、チーマーのリーダーをしていたらしい。東大生はチーマーのことが分かってないし、チーマーは東大生のことを勘違いしているそうだ。

そんな彼が、死にそうになったときに小林秀雄に救われたという。彼は数学の授業中にニーチェを読み、物理の授業中にランボオを読む。

そして、郡司ぺギオや池上高志や茂木健一郎の存在を知って救われたという。数学にニーチェがあり、物理にランボオがあることを知っている人たちがいることを知ったからだ。彼は研究者を目指す。

「ぼくは30までに死ぬ。それまでにクオリアの問題を解きたい」

といわれた。何か言葉がほしいといわれて、ぼくは一人の女性のことを思い出した。5年前のことだ。

「世界を変えるためには力学を変えねばならない」とぼくは言った。

「私は愛で世界を変えるよ。女キリストになるよ」と彼女は言った。

ぼくは批判する力を失い、心から彼女を励ました。

数年後、彼女はキリストになることをあきらめていた。けど、もう一度同じことを言われたら、やっぱり励ますと思う。

神は死んだが、それは遍在するようになっただけだ。

「30になったら殺しにいくよ」とぼく(30)はN君に応えた。

人生は5年ずつ延びてゆく。