先週、「なめらかな社会とその敵」を勁草書房から出版しました。
帯には中沢新一さんと青木昌彦さんからこれ以上ない推薦の言葉をいただきました。
276ページとコンパクトな量ですが、過去13年分の研究と思索をまとめた本です。
勁草書房の編集者から執筆を依頼されたのは6年以上前ですが、「なめらかな社会とその敵」というタイトルで本を書こうと決めたのは10年も前になります。
この複雑な世界を、複雑なまま生きることは可能なのか。境界のない、なめらかな社会はいかにして可能なのか。本書は、この問いへの処方箋を情報技術に見いだしています。
私的所有の生物学的起源からはじまり、オートポイエーシス、伝播投資貨幣PICSYに分人民主主義Divicracy、自然知性から構成的社会契約論にシュミットの友敵論まで、「なめらか」というキーワードを通したひとつの物語として、来るべき300年後の社会システムを描いています。
専門書なのに、出版から数日で重版がかかり、いったいどこのどなたが買って読んでいるのか、分からないまま想像するのを楽しんでいます。
電子出版が勃興しようというこのご時世に、何故に紙の本を出版するのか、いぶかしがる人もいるでしょう。
しかし、もしかしたら、デジタルよりも紙の本のほうが長持ちするかもしれません。
この本を買えば、300年後の読者に思想を散種することにつながります。
想像してみてください。
あなたが買った「なめらかな社会とその敵」は、読後あなたの部屋の本棚にそっと置かれることでしょう。
家に遊びにきた友達が、ふと本棚に目をやり、手を伸ばします。
「よかったら貸してあげるよ。」
あなたは二度と手元に戻ってこないことを知りつつ、友達にその本を薦めるのです。
その後、数奇な運命を辿る一冊の本は、30人の手を渡り歩き、300年後のある日、ひとりの若きプログラマーの両手の中で、破れないようにそっと表紙がめくられます。
物語はそうして始まります。
想像してみてください。
たんぽぽの綿毛が春風の中に踊るとき、種の運命は分かりません。
多くの綿毛は着床することなく途絶えるかもしれません。
しかし、たくさんの綿毛が散種されることにより、奇跡的な事件が起きるのです。
あなたの一冊で。
学校の図書館で本を借りる時、本の裏表紙に張ってある、借りた人の履歴を見るのが好きでした。
20年も前に出版された本なのに、借りたのは18年前の田中さんだけ。
図書館の受付に本を返すとき、次に借りるのは18年後の森田さんかな、と想像し、そこに一冊の本を通して36年の時を越えて3人が会寓する不思議な縁を思うのです。
ぼくがこの本で書いた内容は、そうして図書館や友達の部屋で出会った数千冊の本と、袖振り合った数千人との会話からできています。
どうか、思想の散種にご協力を。
これは私の本であり、あなたの本なのです。