自由意志

金曜日のゼミのテーマはLibetの"Can Conscious Experience Affect Brain Activity"だった。神経生理学者であるLibetは、1983年に自由意志によるものと考えられている運動が、実際には準備電位が発生してから0.35秒後に意識化に上ることを実験的に示した。つまり、意識的に決定してから運動が準備されるのではなく、運動が準備されてから意識上にのぼるのである。しかし、Libetは自由意志を擁護する。彼は、自由意志は運動選択の拒否(veto)を行う点にあると主張する。冒頭の論文は、Libetの1983年の実験を使って意識の随伴説を主張する別の学者への反論として書かれており、驚くべきことに心身二元論を展開しており、二元論を証明するための検証可能な実験プログラムまで提案していることが書かれている。

この手の議論は大きくわけると4つの考え方があることを整理しておこう。

唯物論

②唯心論

③単子論

心身二元論

たいがいの科学者の立場は唯物論である。複雑系の認知理論も、ほとんどは唯物論をベースとして自由意志を自然なillusionとして解釈するための理論的枠組みをカオス力学系を用いて提供しようという研究プログラムである。心身二元論プラトンデカルト以来の西洋哲学において伝統のある学説ではあるが、近代科学においてこれを主張することはかなり勇気のあることだ。最近は茂木さんも心身二元論に傾いているようにみえる。

僕自身は唯物論心身二元論か決着がついていないが、研究プログラムとしては唯物論でどこまで説明できるかをしばらくは追求していこうと考えている。

池上研のひとたちはなぜかライプニッツの単子論に興味をもったようだ。単子論力学系としての解釈を与えるというのも面白そうだ。

われわれは自分の行動が自分の意志の結果であると考えているが、自分の意志が自分の行動の結果であるという多数の例がラマチャンドランの「脳のなかの幽霊」で紹介されている。人間の愚かさと情けなさと愛おしさを同時に感じることができるすばらしい科学書なのでぜひ読んでほしい。