ルーマンの「社会システム理論」を読むゼミがSFCであったので、いってきた。ゼミの時間の最後にでた質問に即答できなかったので、ここに書いておきます。
問い:「要素と関係の差異」って何ですか?
答え:第二段落に書いてあります。
以下は第二段落を理解するための第一段落の冒頭。
************************************************
英訳(John Bednarz Jr.)
************************************************
The difference between system and environment must be distinguished from a second, equally constitutive difference:namely, the difference between element and relation. Here, as previously, we must conceive the unity of the difference as constitutive.
************************************************
和訳(佐藤勉)
************************************************
システムと環境の差異は、同様にシステムの存立の前提となる第二の差異、つまり要素と関係の差異とは区別されなければならない。システムと環境の差異のばあいも、この要素と関係の差異の場合も、その差異の統一性は、システムの存立の前提をなしていると考えられねばならない。(以下続きを書くとby鈴木)環境のないシステムも、システムのない環境もないのと同様に、関係的な結びつきのない要素も、要素のない関係もありえない。システムと環境の差異のばあいも、要素と関係の差異のばあいも、その差異はある種の統一にほかならない(たしかにまた「その統一」の差異と言える)。しかしながら、そうした差異は、差異としてしか作用しない。その差異は、差異であるからこそ情報処理過程に接続することができる。
************************************************
和訳(鈴木健)
************************************************
システムと環境の差異は、同様に構成的差異(constitutive difference)である第二の差異、すなわち要素と関係の差異と区別されなければならない。ここでは、以前述べたように、我々は差異の単位体を、構成的だとして考えなくてはならない。
************************************************
第4節の解説
************************************************
第1段落:ふたつの差異の類似性
constitutive difference(構成的差異)という点においては、ふたつの差異は同じだということを説明している。constitutive differenceとは、差異が構成される(つくられる)ということであり、(差異が)最初からあるわけではない、だからこそ、
環境のないシステム
システムのない環境
要素のない関係
関係のない要素
というのはいずれもないというお話。
第2段落:ふたつの差異の違いと意義
第1段落と第2段落の内容をまとめると、以下のようになる。
システムと環境の差異 | 要素と関係の差異 | |
同様性 | 構成的差異 | |
分解 | システムの中の諸部分システム | 諸要素や諸関係への分解 |
例 | 家の中の部屋 | 石材、角材、釘 |
理論 | システム分化の理論 | システム複雑性の理論 |
上の表の分解以下が2つの差異の違いで、
こういう議論をする意義が、「『分化が増大するにつれシステム複雑性が増大する』という命題がトートロジーでなくなること」である。
第3段落以降:
「要素が単位体であるのは、「上からの」構成によって説明されるべきである。要素はシステムにとってのみ要素なのである。」ということについて延々説明している。第1段落を前提とすりゃ、当たり前の議論だが、ここが崩れると、要素が静的になるため、上の命題自体が成立しなくなるから一生懸命書いたのだろう。そういう意味では、後々ということを考えると、上記の命題
『分化が増大するにつれシステム複雑性が増大する』
がこの節で一番重要な命題だということが分かる。
*********************
誤訳との戦い
*********************
constitutive differenceが「システムの存立の前提となる差異」と訳されてしまうことによって、第一段落の意味が分からなくなり、第二段落の位置づけも分かりにくくなる。
このように節の冒頭の文章を誤訳するというのは、節全体の主張を訳者が理解していないということである。理解していないのに、意訳を放り込むのでますます分からない。特に第六章の「相互浸透」は誤意訳がはなはだしい。
(ただし、ぼくは独語のオリジナルを参照していないので、そういう意味のある言葉が割り当てられていたのかもしれないが)
*********************
おまけ1
たぶん、「5 諸要素間の関係の条件付け」というのは誤解で、もし言うとすると、「諸要素間の諸関係の相互条件付け」となる。なぜなら、
1.その後延々と、条件付けは諸関係の間で起こると言っている。
2.英訳では「Out of the relation among elements emerges the centrally important systems-theoritical concept of conditioning」となっている。out ofがポイントで、諸要素の関係の外側でconditioningが生まれると言っている。
和訳するときに諸がつくと複数形のsがついているわけで、条件付けというのは関係の間で相互に条件付けしているわけだ。つまり、((関係と関係)の関係)を条件付けといっているわけ。
*********************
おまけ2
unityは単位性もしくは単位体と訳すべき
「統一性」では「度量単位、尺度および集合」(P32)を説明できないが、「単位性」ならわかるでしょ。