特別セミナー@井庭ゼミ

慶応SFC井庭ゼミで特別セミナーをすることになりました。もし参加されたいという方がおられれば、鈴木(ken@sacral.c.u-tokyo.ac.jp)まで連絡ください。

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セッション1「ルーマンとヴァレラにおけるオートポイエーシス概念の違い」

speaker 鈴木健(東大院)、鈴木啓介(東大院)

2004/10/26(火) 16:30-18:00

慶応義塾大学湘南藤沢キャンパスε21

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 ヴァレラは、社会システム等にオートポイエーシスの成果を応用可能にすることを目指して、オートノミー概念を提唱したが、その主張はあまり知られていないか、誤解されている。実際、河本さんの本でも誤解をしているほどだ。

 オートポイエーシスの提唱者の一人であるヴァレラによるオートポイエーシスと、社会システム理論家のルーマンによるオートポイエーシスでは、定義が異なる。ヴァレラの用語からルーマンの用語への変換が可能であること(要するに、単に言葉の定義の問題に過ぎないこと)が、ヴァレラの「生物学的自律性の諸原理」とルーマンの「社会システム理論」を読み解くことによって可能である。具体的には、ルーマンの「オートポイエーシス」は、ヴァレラにとっては、「構成素がコミュニケーションであり、プロセスが構成素産出プロセスであるオートノミー」となる。

 今回のセミナーでは、まず最初に、ヴァレラのモデルをベースに研究をしている東京大学の鈴木啓介さんに、モデルのシミュレーション・デモをしてもらい、とかく抽象的になりがちな、ヴァレラのオートポイエーシス概念を視覚的、直感的に理解してもらう。

その後、鈴木健が、ヴァレラのオートポイエーシス概念の定義とオートノミー概念の定義を紹介し、ルーマンの定義との変換を試みる。

 時間があれば、ルーマンのダブル・コンティンジェンシー概念を理解する手助けとなるであろう、池上らのcoupled dynamical recognizerのシミュレーション研究を紹介する。

 このセッションは、論文を普通に読めば分かるエレメンタリーな内容で、新たな知見などはありません。

★参考文献

ルーマン「社会システム理論」

Varela, F. J. (1979) Principles of Biological Autonomy

うち第一部が、現代思想2001/10号に「生物学的自律性の諸原理」として和訳されている。

【モデルのオリジナル論文】

Varela, F. R., Maturana, H. R., and Uribe, R. (1974). Autopoiesis: The organization of living systems, its characterization and a model. BioSystems, 5:187.

【再実装したもの】

McMullin, B. and Varela, F. R. (1997). Rediscovering computational autopoieses. In Husband, P. and Harvey.,I., editors, Proceedings of the 4th European Conference on Artificial Life, page 38. Cambridge, MA: MIT Press/Bradford Books.

【実装の参考にしたもの】

SCL: An Artificial Chemistry in Swarm Working Paper 97-01-002 of the Santa

Fe Institute. January 1997.

ちなみにmcmullinの論文は以下のURLから手に入ります。

http://www.eeng.dcu.ie/~mcmullin/Publications.html#Pubs

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セッション2「境界を越境し伝播する貨幣、信頼、契約」

speaker 鈴木健(東大院)

2004/10/26(火) 18:10-19:30

慶応義塾大学湘南藤沢キャンパスε21

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 インターネットが、インターネットとしての価値をもつのは、その伝播性にある。ネットの文法は伝播性という性質を最大限に活かすように、進化せねばらない。その由来を、ヴァネバー・ブッシュのmemexからgooglePageRankの歴史に至るまでのハイパーメディアの歴史の中から探る。

 さらに、人間のもつ悲しさについても語りたい。

 講演者の鈴木が4年前から取り組んでいる、伝播性というコンセプトによってネットの文法を刷新しようという取り組みのうち、貨幣、信頼、契約の3つのアイデアについて紹介したい。

伝播投資貨幣PICSY

 AさんがBさんに取引という貢献をして、BさんがCさんに取引という貢献をしたら、AさんがCさんに貢献したとみなすべきである。このような貢献価値の伝播性を持つ貨幣が、伝播投資貨幣PICSYである。2000年の夏に思いついたこのアイデアは、2002年度、IPA未踏ソフトウェア創造事業に採択され開発された。すべてが投資の貨幣であるPICSYは300年後くらいには、国家通貨、国際通貨に発展させていきたいと考えている。

【STN(Social Trust Network)】

 このような伝播性を、情報の信頼性に適用できないか、ということを、P2Pが盛り上がりをみせた2000年ごろから考えていて、Social Trust Networkというアルゴリズムを開発した。現在、SFC村井ゼミD1の須子さんと一緒にSNSRSS Readerとして開発している。このシステムは、近いうちにαリリースする予定だ。

【新しい社会契約論】

 そもそも、私が伝播性について強く意識したのが、GNU GPLライセンスの伝播性であった。契約の伝播性によって、ここ数百年支配的な社会契約論という概念をどこまで崩せるかがポイントだ。契約の伝播性による「新しい社会契約論」というコンセプトを5年以内に作り上げて、ポストルソーを切り開きたいと考えている。おそらく問題になるのは、安全保障と社会保障、環境問題の3つで、この3点において革命的なアイデアが欲しい。

このセッションは、国際大学グローバルコミュニケーションセンター「情報社会の倫理と設計についての学際的研究 Interdisciplinary Studies on Ethics and Design of Information Society」プロジェクト、略称「ised@glocom」における私の意見としたいと考えている。来年の4月に発表があるので、活発な意見を期待したい。

★参考文献

ホットワイアードの記事と対談

ネットコミュニティ通貨の玉手箱(「NAM生成」所収,太田出版,2001)

PICSY WEB PAGE

制度進化としての伝播投資貨幣(「進化経済学のフロンティア」所収,日本評論社,2004)

XMLの文体と新しい社会契約論(未完)