鈴木と井上によって表された論文「制度進化としての伝播投資貨幣」について、
慶應大学助教授の遠藤さんからレビューを賜りました。遠藤さんありがとうござ
います。
遠藤さんによる重要な指摘の一つは、以下の通りです。PICSYは、一つの商品に
対して、多様な評価を許す可能性がある、しかし、評価を高くすれば、自己の購
買力が減るので、それを避ける結果、結局全ての購買者による評価が低い値に収
束していってしまうだろう、と。
おっしゃる通りです。PICSYの原初的な形態は、多様な評価を許すものでした。
しかし、購買力の現実的なイメージに即応させるために、商品を買うたびに購買
力が減る(自己評価が減る)ような仕組みに変更し、さらに定価概念を導入した
ことにより、評価の多様性は失われてしまいました。無論、SECSY(決済通貨、
日本円のような通貨)同様に、定価概念を使わずに取引することも可能でしょう
が、PICSYならではの強い意味での多様性が損なわれていることに違いはありま
せん。
逆に、自己評価が減らない仕組みのままであれば、多様性を維持できます。しか
し、その場合、購買しても購買力が減らず、我々の持つ購買力のイメージと食い
違いができてしまいます。
このように、あちらを立てればこちらが立たず、という事態がPICSYには少なか
らず発生します。それ故、PICSYが潜在的に持つ利点のより多くを取り込むよう
なシステムがこれからも模索される必要があります。
現在は、評価の多様性よりも購買力の現実的イメージとの即応を優先しています。
「制度進化としての伝播投資貨幣」は、他の著者たちとの共著として、近日出版される予定です。その原稿に対し、Yaleに滞在中の遠藤助教授からはるばるレビューをいただきましたので、このblogで議論することにします。